はみ出し方が9割

まえがき

 最近、越境について思う所ありまして、本コラムを書こうと思います。

主にEC(エレクトロニクス・コマース)業界であれば、越境とはすなわち、日本と海外、つまり国境を越えるという意味で越境と称されることが多いです。

弊社は不動産会社ですので、社内で使われる越境とは対象物件と隣地との間の境界を越えるという意味での越境が多いです。

本稿執筆時点においては11月末ですが、まもなく来るであろう本格的な冬の到来に伴い豪雪地帯においては雪で積もるため、地面が見えなくなります。境界石や境界鋲も見えなくなります。

関係者の皆様お疲れ様です。

1.原則

(境界線付近の建築の制限)
第234条建物を築造するには、境界線から五十センチメートル以上の距離を保たなければならない。前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から一年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。

WIKIBOOKS民法第234条

 とありますが、とりわけ都内においては、どうしてもそのような余裕があるわけではなく、隣地へ建物若しくはその一部、樹木の枝などが越境したり、あるいは隣地から越境されたりとのケースが多くあります。建築基準法においても、隣地からの建物の後退距離を定められておりますが、それでも建物同士の十分な距離がとれないこともあります。  隣地から樹木の枝若しくは根が伸びてきている場合は、対応が異なります。

(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第233条
1.隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2.隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

WIKIBOOKS民法第233条

 あくまで、切断するのは、隣地の所有者ということであって、越境されたほうは、それを請求する事が出来る。という建付けになっております。

2.対応策

 枝木であれば、「ちょっと、切ってください」ですが、建物の屋根の一部、地中の埋設管等多々あります。現実的には、越境に関して越境当事者(対象不動産所有者と関係する隣地所有者)との間で『越境に関する覚書』等を締結するケースが多くみられます。

要点は下記

  1. 両者の間で境界について合意があることが大前提になるかと思います。(そもそも境界線が定まっていない状態では、越境という事象が認識できません。)
  2. 両者の間で越境物を特定する事。境界が定まっている状況で越境している物体を写真で図示 している書面であることが証拠能力として高いといえます。
  3. 再建築の際には、越境している権利者の費用負担において越境を解消すること。
  4. 両者が当該所有権を承継する場合には継承人に対して本覚書に規定する債務を承継する事。という文言で記載される事がありますが、わかりやすい口語体で言えば、上記の①~③の約束事を次に買う人若しくは相続する人に引き継いでくださいね。ってことです。要注意なのは、これらの当事者は、次の所有者に対して引き継ぐように定められておりますが、肝心の次の所有者についてはこれらの覚書には何ら登場しません。引継ぎされるように働きかけられますが、引き継ぐかどうかについては何とも言えないのが、一般的な見解になります。

とここまで、一般的な規定になっております。

が、意外と見落としがち、かつとっても重要になる条項について次にご説明いたします。

3.時効取得

 時効取得という恐ろしい制度があります。もともとの所有者ではないに関わらず、ある特定の条件を満たすと所有権を主張できる。つまり、自分の物(土地、建物)が、びた一文払ってもいない他人に所有権が移転する。要は取られちゃうって恐ろしい話です。

権利の上に胡坐をかくものに対して、救済をしないというのが、その民法の制度趣旨と解説されております。

(所有権の取得時効)
第162条
1.二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2.十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

WIKIBOOKS民法第162

 上記第1項は、他人の物と知りながら、占有していた場合、20年間経てば所有権取得してしまうという意味です。

 これが越境の場合にどう適用されるか?

建物の一部が越境している場合、越境と両者が認めているものの、その越境した建物の底地分について、時効取得が成立してしまうケースが考えられます。

 前章の①~④の要点にもう一つ加えて

⑤当該越境部分については、〇は時効取得を主張しない。

といったような文言を付け加えるのが、よろしいかと思います。

まとめ

 売買契約書に比べれば、扱いが軽く感じがちな○○の覚書です。そもそも、売買契約書と違って収入印紙貼らないし、またA4紙ペラ一枚しかない事が多いので、ついおそろかにしがちですが注意しましょう。不明な点等あればメールにてご相談くださいませ♡

<了>