祝J-REIT設立19周年記念~過去の行政処分例を勝手に解説~

さて、まもなく9月10日がやってきます。この9月10日は何の日でしょうか?

2001年9月10日(大惨事をもたらしたアメリカ同時多発テロ事件である通称911の前日)は、我が国で不動産投資信託が初めて上場した日です。栄えある第一号は日本ビルファンド投資法人とジャパンリアルエステート投資法人の2銘柄が同日に上場を果たしました。

 筆者はとあるJ-REIT運用会社に勤務の経験がありますので、いわゆる中の人になります。その中の人だった経験も踏まえて今回は、J-REITのまとめをしたいと思います。

 もっとも市場創生のころから、現在までの紆余曲折を経て市場拡大の歩みを振り返るのは、アナリストさん等の識者の方にお任せします。ここでは、関係者の皆さんなら誰もが忘れてしまいたい事、行政処分の歴史を振り返ってみようと思います。

これらの既出の指摘事項は、現在となっては、是正して当然の事項であり、当時確信犯ではない限り、軽視しがちな事項若しくは見落としがちな論点であったかと考えられます。

そういった事項は改めて整理する事もまた、今後の活動指針を支える有用でありましょう。

1.行政処分の概観

行政処分は、平成18年4月28日(公表日ベース)から平成20年12月5日まで、全部で16法人に出されております。

またその内訳として行政処分は大きく分けると①業務改善命令と②業務停止命令の2種類あります。

業務改善命令 16件
業務停止処分  3件

また、行政処分の対象は①資産運用会社のみの場合と②資産運用会社及び投資法人の両方の2パターンがあります。

投資法人   9件
投資運用業者 6件

 補足しますと、我が国の不動産投資法人は、私募ファンドと同様のSPC(特別目的会社)、器(ヴィーグル)にでしかなく、資産の運用業務は、資産運用会社(金商法上の業種は投資運用業者にあたります)に対して委託するものとなっております。不動産投資信託は外部の資産運用会社によって運用されているために外部運用スキームと称されることになります。そのため、上記のように投資法人(ヴィーグルとそれを運用する資産運用会社の2者が登場することになります。

 では、外部運用に対して内部運用ってあるの?と疑問にもたれるかと思いますが、これはあります。米国の上場不動産投資信託については、主に内部運用で行われているようです。

 外部運用方式の場合は、資産運用会社が上場不動産投資信託(J-REIT)の運用を行います。ここでいう運用とは、不動産の取得、管理、売却などの物件運用の面と、借入金や資本金を扱う財務面、投資法人の会議体の運用も行います。

 ここでいう、資産運用会社は、スポンサー会社の子会社であることが多く、資本関係もあり、また人的サポート(スポンサー会社からの出向等)もあるケースもあります。スポンサー会社から投資法人への安定的な物件供給(売買)が、投資法人の資産規模の持続的な成長が図れるとされています。

 ここで、問題なのは資産運用会社の株主及び、人的資源もスポンサー会社に依存している一方で、投資法人の背後にいる投資家の利益を損ねるのではないかという懸念があります。わかりやすい例は、スポンサー会社から投資法人が物件を不適当に高い価格で取得する。(不適当に高い価格水準で物件取得すると投資主に不利益になるというロジックです)  スポンサー会社と投資法人との取引は、常に危険を孕んでいるとされています。そのために、スポンサー会社から投資法人が物件取得の際には不動産鑑定評価書を取得して、その鑑定評価額以下にするなどの規定を設けます。

2.資産運用会社の場合

資産運用会社が処分を受けた主な例を下記に列記いたします。

資産運用会社名主たる契機
オリックス・アセットマネジメント組み入れ不動産の取得審査業務が不適切
ダヴィンチ・セレクト組み入れ不動産の取得審査業務が不適切
ジャパン・ホテル・アンド・リゾート利益相反状況において売主の利益を図る行為
プロスペクト・レジデンシャル不適切な利益相反管理態勢善管注意義務違反
クリード・リート利害関係者から資産取得時の善管注意義務違反
※社名は当時の社名のままです。

この一連の事情を踏まえて行政処分を見てみると、スポンサー会社から投資法人への物件取得時の一連の手続きに指摘されている事が多いのが見て取れます。これらの指摘を受けて、社内において法令遵守態勢の整備等を推進したものと考えらます。

 スポンサー会社と投資法人の取引は物件売買の他には、賃貸借(例:投資法人所有の物件をスポンサー会社が賃借)、PM委託(例:投資法人の物件管理をスポンサー会社が受託する)、借入、増資(例:投資法人の投資口をスポンサーが第三者割当増資)等もありますが、あまり論点にはなっていないようです。

3.投資法人の場合

投資法人名主たる契機
日本リテール投資法人役員会議事録の不実記載等
日本レジデンシャル投資法人不適切な役員会の運営
オリックス不動産投資法人不適切な役員会の運営
エルシーピー投資法人議事録の不実記載、不適切な役員会の運営
他にもありますが、同じよう文言が続くので略します

投資法人は外部運用方式においては、器(ペーパーカンパニー)にしかすぎず、執行役員と監督役員の籍がある状態です。稼働するのは投資法人の役員会が開催されるときのみ。なので、役員会の開催に係る事項しか検査の対象にならないと思われます。

まとめ

最後の行政処分が平成20年12月でしたので、約12年が経過しております。前回の処分時からは、世代交代も進んでおり、以降に設立した投資法人もあり、当時の記憶も薄れがちなので、「ちゃんとやってんの?」と老婆心ながら思いますが、今回はここまでにします。

[参考]金融庁 行政処分まとめ一覧https://www.fsa.go.jp/status/s_jirei/kouhyou.html

<了>