ほどほど競売入門編 その1 ~中の人でした

  1. 競売物件フロー
  2. 3点セット
  3. 評価書の留意点

まえがき

筆者はずいぶん前に、競売関係の仕事をさせていただいておりました。

競売物件に居座って立退料を要求するとかいう反社チックなものではなく、競売物件の評価をする評価人(不動産鑑定士)の補助という立ち位置で半年ほどお仕事させていただいておりました。なお、競売物件の調査が不動産業界のデビューでした。懐かしい。

この酷暑の中、外出するのがつらいので、涼しい執務室内で競売物件調査時代の体験をまとめてみました。

ここでいう評価人のご説明をいたします。ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、かの有名な3点セットのうち1つである評価書を作成する人です。

1.競売物件フロー

競売物件のサイトならこちらになります。

BIT 不動産競売物件情報サイト

手続案内 | BIT 不動産競売物件情報サイト

http://bit.sikkou.jp/guidance/guidance01.html

この流れの中で、地方裁判所から評価命令が評価人に下命されます。評価人が現れるのは、この評価書を作成、裁判所に提出するまでで、以後は、物件の権利関係に関する異議申し立て等により再評価命令が出るなどがない限り、登場いたしません。

2.競売3点セット

①       物件明細書    作成者:書記官

②       現況調査報告書  作成者:執行官

③       評価書      作成者:評価人(不動産鑑定士)

上記の書類群と『期間入札の公告』を合わせれば競売事件が一通り把握できるという事になります。

物件資料を基に公法上の規制や私法上の権利関係を執行官と連携をとりつつ、権利関係を明確にして評価額を算定するのが評価人のミッションになります。執行官の作成する『現況調査報告書』と事実関係の齟齬がないように留意する必要があります。そして評価人が作成する『評価書』と併せて担当書記官が『物件明細書』を作成して3点セットの完成となります。

3.評価書の留意点

評価書作成に関与していた(中の人)立場から何点か知っておいたほうが良いことを書かせていただきます。

①物件資料は競売申立人(債権者)から提供されます

 競売申立は債権者が行うことが一般的です。債権者というのは銀行さんであったり、消費者金融の金融機関であることが主です。そんな債権者の皆さんが把握している情報を裁判所に提供、裁判所から評価人、執行官に共有されます。

つまり、債務者(所有者)が債権者に内緒にしていることや、債権者が調査をしても掴み切れなかった事実についてはスルーのままってわけです。

調査は執行官と評価人が連携をとりつつ行うのは前述いたしましたが、住み分けはあって公法上(都市計画法、建築基準法、農地法、土地区画整理法等)の調査事項は評価人、占有関係と賃貸借等の権利関係の明確化は、(解錠技術者も同行して目的物件に立ち入ったりします)執行官の領域です。

債権者収集の資料は必ずしも正確ではないものが来ますが、そこから物件の全容を明かしていくのがお仕事になります。

なので、資料(住宅地図、公図、謄本等)を手に現地に行って「えっ!」て驚いたこともしばしばありました。印象深い案件を以下に

②最新の住宅地図に「畑」の記号があるにも関わらず、現地に行ったらなぜか築50年ぐらいの農家住宅が建っていた事件

  経緯 住宅地図は航空写真を基に作っているはずです。最新版だったので2年以内の航空写真から「畑」としたはずなのに、目の前に建っている農家住宅は囲炉裏がありそうな年季の入った造りです。筆者の頭の上には「?」マークがずっと浮かびました。なぜかは全然わかりませんでした。なお当該土地上に建物登記なし。

回答編 農家住宅は隣地から曳家してきたというのが実態でした。実は隣地にその農家住宅が建築されていて土地に担保が設定されており競売実行されたとの事。でもなぜか建物(農家住宅)には担保未設定だったらしく競売から逃れるための秘策発動!まず建物の基礎からジャッキアップ、次いで設置したレール上を曳家、例の隣の畑を整地してその上に農家住宅をセットオン。

かくして最新の住宅地図の「畑」上に忽然と姿を現した歴史的農家住宅。

・田んぼに車が駐車してました。

 この案件は、市街化調整区域内の田にも関わらず、現況は駐車場として利用されており、乗用車や軽トラックなどが数台駐車しておりました。

 この場合は農業委員会の判定が必要になります。当委員会が農地の無断転用と判断すれば、原状回復命令が出る場合があります。

 が、当該件は農地判定との事でした。つまり田の上に駐車している事に。

③所有者は積極的に売りたいわけではない

 通常の不動産売買では、重要事項説明書を仲介業者が作成し、買主さんに説明します。また告知事項等は売主さんの供述により、作成して買主さんが確認いたします。競売はこれらの売主さんの協力が、ほぼほぼ得られない中で、3点セットおよび自力で調査を行い買うことになります。御存知かとおもいますが、瑕疵担保責任(今は名称は変わって契約不適合責任)はありません。釈迦に説法ですいません。

④評価書は評価の条件をご確認

 不動産鑑定評価書をお読みになられたことのある方であれば、お気づきかと思いますが、競売の評価書は評価の条件に独特の文言が付されております。

主な点を下記に

・民事執行法による売却価格であること

・競売不動産特有の各種の成約があること

・一般の取引市場において形成される価格ではないこと

・現地調査は目視可能な部分に限定されていること

 上記のごとく、列記されておりますので、拳拳服膺の上ご検討ください。

 また、価格算定の過程が、簡略化されている向きも見られます。もちろん価格がいい加減というわけではありませんが、工数が少ない分だけ価格検証の精度は低いという向きもあるのかもしれません。

 と、ここまで書いたところで、だいぶ字数が増えたので以後は次回にいたします。

<続く>